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kayakaya日記


Apr 17, 2009 (Fri)

# 『図説イングランド海軍の歴史』

図説イングランド海軍の歴史(小林 幸雄)

イングランド海軍の歴史とあるが、だいたいスチュアート朝からトラファルガーの海戦までの通史で、帆走艦の時代だけを扱っている。いわばパックス・ブリタニカに至る長い道のりの歴史。没落は書かれてない。図説とタイトルにあるけれど、所々に肖像画と海戦図があるくらいで、図解でないです。念のため。そこそこ厚い本だけど、専門書でもないし、素人でも読める(高校の世界史は頭に入ってないと面白くないと思うが)。注釈も参考文献もしっかりしているし、興味を持てば先に進める。なお、著者は海将補まで務めた海自の自衛官。そのような専門職的な知識に裏付けられているだと思う。かなりオススメ。

いろいろな角度から読める本だが、僕はつくづく戦闘はコミュニケーション手段に制約されるのだな、と感じた。そんなの当たり前だよと言われそうだが、当たり前のことを当たり前に再確認できるのは重要だよね。

あの時代はとうぜん無線はない。戦闘中の通信手段は信号旗に頼ることことが多い。もちろん全部信号旗ではないが、ドンパチやっている状態になったら伝令船も使えないし、信号旗しかないという感じだ(砲の硝煙で信号旗が見えなくなるということも……)。信号旗しかなくて大丈夫なの?と思うかもしれないが、帆走だから、今とは感覚が違う。敵艦見ユ、という状態になってから、艦長同士が旗艦にボートで集って、さぁ、どうしましょうかね、と作戦を考える余裕があった時代だった。帆走速度や搭載砲の射程を考えれば分るのだが。この辺は海戦モノの映画でもあまり再現されてない感覚なので実感が湧かないなぁ*1

もちろん、ぜんぶ敵を見てから現場で決めていると支障が出るし、だいたい戦闘のパターンは決ってくることもあり、艦隊戦術準則という海戦ガイドライン(みたいなもの)が定められている。勝利した海戦の経験に基づいて有能な提督が定めてきたものなのだが、この艦隊戦術準則が金科玉条みたいになってしまい、いざ実戦になると支障が出てしまう事例がいくつもあり興味深い。艦隊戦術準則は当時の中心的な単縦列陣形を原則にしている。単縦列陣形は、先頭艦に後続が従えば良いので、コミュニケーションが制約されているし、動きが制約されている帆走艦でも運用しやすいオーソドックスな戦術だったらしい。単縦列陣形で戦闘が行われても、いつかはその戦列は崩れる。例えば敵艦が攻撃で損傷したら戦列から離脱して逃げる。この遁走する敵を攻撃するために戦列を解いて追撃できるか、というのが問題になった。艦隊戦術準則は追撃戦も混戦も禁止していないが、戦列を離脱する妥当性というやつが難しくて、下手すると準則違反になってしまう。そのため、なかなか戦列を離脱して追撃するという判断を下せない雰囲気ができてしまったらしい……。

英仏が戦ったツーロンの海戦(1745年)では、この戦列を巡り軍法会議が開かれる始末。「戦列を形成しつつ交戦せよ」と信号旗を掲げた艦隊司令官に、後衛の司令官が従わなかったらしい。「交戦に参加しようにも、まだ戦列に入っていなかった。仮に戦列に入っていても、これを離脱しなければ戦闘できなかった」と自己弁護した後衛司令官の主張が認められて艦隊司令官がクビ。どっちもどっちだろうが、戦闘より法廷で勝ったもんが勝利者みたいだ。

ここまでヒドくないけれど、戦列を巡った軍法会議がけっこう開かれて、かなりの指揮官がクビになった。中には銃殺された司令官も……。さすがに、こんな状況に憤った艦隊司令官もいたようだ。海軍の規模が拡大すると、サポートする組織も肥大化して、良くも悪くも官僚主義に陥いってしまう。踊るナントカ線じゃないけど、海戦は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ、みたいなものかなぁ。

戦列主義の話の締めはネルソン提督。彼のあまり戦列だけで戦わなかったみたい。どちらかと云えば、乱戦に持ち込んだり敵の戦列を突破する、さらには挟み撃ちするパターンが得意だったようだ。戦列突破や挟撃はタイミングが難しい。リスクが高い戦術だ。ネルソンは敵の予想されるパターンに応じて、あらかじめ作戦を練って配下の司令官や艦長に周知した。危うげな戦術を周到に準備して、それを臨機応変にやっている。用意周到かつ大胆不敵なのだ。ネルソンとはそういう人物だったのか、と少し感心した。用意周到な準備と打ち合わせこそトラファルガーの勝利だったのだろうな*2。ちなみに、ネルソンはトラファルガーにおいて、2列の縦列で敵の単縦を突破した。ネルソンズ・タッチという手法と呼ばれているそうなので画期的だったのだろう。ネルソンは偉大だったために、戦列主義の呪縛からネルソンの呪縛にはまる。あれを克服すると、こちらの呪縛に……。いや厄介ですな。

本書はこのような話ばかりではないのだが、戦列主義の話が一番印象に残った。個々の海戦の詳細を読む機会はあるけれど、200年とかのスパンでこのような視点を持てる本には今まで会えなかったな。

そうそう、トラファルガーの海戦といえば、ネルソンが掲げた"England confides that every man will do his duty"という信号が有名だが、本書でもこの信号旗の逸話に触れている。さて、この信号旗はどのようなモノだったのか。ありがたいことにWikipediaに信号旗の画像がある。いったい何枚の旗が使われたか数えると良いかも。当時の人はぱっと信号旗を見て意味を掴んだのだろうが、掲げるのに時間がかかる。この組み合わせの信号旗を繋留するのに何分くらい必要なのか知りたいのだけど、動画とかあったりして。ともかく、兵器のスペックだけが戦争じゃないので、戦争オタクはこういう本も読んだ方が良いだろうね。

図説イングランド海軍の歴史(小林 幸雄)

*1 たいての戦争映画は時間軸を無視しすぎなんだって、と見てきたようなことを書く

*2 フランス海軍を港に釘付けできるほどの海上封鎖を実行できるイングランド海軍の底力は忘れたらダメだろうが

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]
_ へいちゃん (Apr 18, 2009 (Sat) 07:01)

「臨機応変」が「臨機黄変」になっていますよ。

_ kayakaya (Apr 18, 2009 (Sat) 11:17)

修正しました。指摘サンクスです。


年間聖句(2010年)

あながたは皆、信仰により、キリスト・イエスに結ばれて神の子なのです。洗礼を受けてキリストに結ばれたあなたがたは皆、キリストを着ているからです。

新共同訳聖書ガラテヤの信徒への手紙3章26節

You are all sons of God through faith in Christ Jesus. for all or you who were baptized into Christ have clothed youselves with Christ.

Galatians 3:26-27 (New International Version)